マルチモーダル・コミュニケーションの必然性と、逃せない好機
著者：ホフマンジャパン株式会社 CDO Takeo Apitzsch
マーケティングや企業コミュニケーションに携わる方であれば「AIDAモデル」を一度は耳にしたことがあるでしょう。これは、消費者が購入に至るまでの意思決定プロセスを、心理的ステップに基づいてシンプルに体系化したフレームワークです。数十年にわたって大きく変わることなく、今でも世界各地の大学やビジネス現場で活用されています。
ホフマンエージェンシーでは、信頼を軸にしたセールスファネルの設計において、AIDAモデルは今もなお有効な基本的論理フレームワークだと考えています。事実に裏打ちされ、力強いストーリーテリングによって支えられたAIDAモデルは、見込み顧客が情報を収集し、理解し、興味を深めていくプロセスを明確に可視化しています。
私たちは、企業が直面する複雑なビジネス課題の解決を多面的に支援しています。認知や信頼を高めるための優れたPRサービスを提供するだけでなく、すべての施策がROI（投資効果）につながるべきであるという視点を大切にしています。企業の評判やブランド価値を高めることで中長期的な成長を後押しする間接的な支援はもちろん、デジタルマーケティングや戦略的なキャンペーンによる即効性のある販売支援も行っています。（本ブログで紹介している以外にも、幅広い領域でサービスをご提供しています。どのような課題でも、お気軽にご相談ください。）
AIDAマーケティングファネル
AIDAモデルは依然として有効なフレームワークである一方で、私たちは今、その前提を揺るがすような大きな変化に直面しています。AIの台頭により、従来存在していた情報収集や比較検討のプロセス上の障壁が取り払われつつあり、見込み顧客は「Attention（注意）」から「Action（行動）」へ、これまでにないスピードで一気に移行し始めているのです。
私たちはこの新しいプロセスを、「マルチモーダルファネル」と呼んでいます。
かつてないスピードで進むAI革命
AI主導のマルチモーダルファネル
ChatGPT、Gemini、Claude、DeepSeekといったAIプラットフォームの進化スピードは、従来の技術進歩をはるかに上回っています。
いまや業界を問わず、あらゆる企業がハードウェアとソフトウェアの両面から自社製品へのAI統合を急ピッチで進めています。代表例としてMetaは、オープンソースの大規模言語モデル「Llama（現在第4代目）」の開発を継続する一方で、Ray-Ban Metaグラスや、Quest 3Sを含むヘッドセットなど、ウェアラブル製品の拡充も進めています。本稿執筆時点では、MetaはOakleyとの共同開発によるスマートグラスに加え、スマートウォッチやAirPodsに対抗するヘッドホンの投入を計画しています。
Apple、Google、Microsoftなどの巨大テック企業も同様の動向を見せており、あらゆるデバイスに「インテリジェンス（知能）」を組み込もうとしています。私たちがテクノロジーを「使う」時代から、それを「身につける」時代への転換が、いま着実に進みつつあるのです。
検索の概念を揺らがすプレッシャー
ユーザーの検索行動が大きく変化していることは、各種データからも明らかです。Googleは依然として高いシェアを維持していますが、陰りも見え始めています。2024年末、同社の世界検索シェアは長年ぶりに90％を下回り、2025年においては89％台で推移しています。さらに、ChatGPTが検索市場の4.33%を獲得するなど、かつて絶対的とされたGoogleの地位にも、明らかな変化が起きています。
また、これらの影響は市場シェアにとどまりません。GoogleのAIによる概要（AI Overviews）によって、多くのウェブサイトのオーガニックトラフィックが大幅に減少しています。業界やクエリによっては15〜64％も減少しているという調査もあり、MailOnlineはAIによる概要によって、クリック率が56%低下したと報告しています。
象徴的なのは、こうした変化をＧoogle自身が避けられないと認識している点です。Googleの幹部たちは、検索トラフィックが今後、同社のGeminiプラットフォームや、ChatGPTのような競合AIエンジンに流れることを想定しています。これは、20年以上にわたってGoogleの広告事業を支えてきた従来型検索モデルからのパラダイムシフトを意味しています。
ユーザー行動こそが真の革命
いま起きている変化は、単なる技術進化ではありません。本質的なインパクトは、消費者の行動そのものにあります。ある調査によると、62%の人が情報収集の手段としてAIチャットボットを使用していることが明らかになっています。これは、私たちの知識へのアクセス方法が根本から変わり始めていることを示しています。
ユーザーは、もはや複数の検索結果を読み比べるのではなく、対話型のAIインターフェースを通じて、必要な情報をダイレクトに得ることを選ぶようになっています。
この行動変化は、Googleの広告モデルの根幹を揺るがすものです。AI検索エンジンは、従来のGoogle検索に比べ、ウェブサイトへのリファラルトラフィックを96%も減少させるとされており、検索者・コンテンツ制作者・広告主を結びつけてきた従来のエコシステムに深刻な影響を与えつつあります。
顧客体験の断絶を埋めるウェアラブルAI
Metaをはじめとした大手IT企業は、進行中のパラダイムシフトを、「検索」や「情報収集」における次なる覇権を獲得する絶好のチャンスとして捉えています。彼らは、ユーザーと製品、そして購買判断の間にあるギャップを埋めるため戦略的な転換を進めています。これは単なるテクノロジーの発展ではなく、顧客体験そのものを再定義しようとする動きなのです。
広告からAIハードウェアへの戦略転換
GoogleやMetaのように広告モデルを主軸に成長してきた企業が、なぜこれほどまでにAI開発に注力しているのでしょうか。確かに、AI検索がGoogleの検索シェアを侵食し始めているのは事実ですが、それ以上に注目すべきは、AIを取り巻くハードウェア領域で起きている革命です。
この流れは、ChatGPT LLMを開発するOpenAIの戦略にも大きな影響を及ぼしています。OpenAIのCEO（最高経営責任者）であるSam Altman氏は、Jony Ive氏の会社「io」を64億ドルで買収し、テクノロジーやソフトウェアのバックエンドとフロントエンドを手がけるだけでなく、日常生活で使われる物理的なAIデバイスを自ら設計・提供する体制の構築に乗り出しています。
誰もがAIグラスを身に付ける未来？
目の前に気になる商品が現れたとき、キーボードを触ることも、長い検索結果をスクロールすることもなく、身につけたAIデバイスに話しかけるだけで詳細情報や購入方法が即座に返ってくる―そんな未来を想像してみてください。どのプラットフォームで買うか迷うことも、広告を経由して情報を探しに行くこともなくなります。Googleなどの検索エンジンが構築してきた私たちの「検索する」という習慣が、もはや意味を持たなくなります。次世代のユーザーは、私たちが当然のように行ってきた、煩雑な情報探索のプロセスすら理解できなくなるかもしれません。
そしてこの未来は、すでに現実になりつつあります。Appleは2026年までにAIグラスを発表すると噂されており、GoogleはWarby ParkerやGentle Monsterと提携し、AI搭載のスマートグラスを開発しています。また、MetaのRay-Ban Metaグラスは、ウェアラブル領域におけるシームレスなAI統合の新たな標準をすでに打ち立てつつあります。MetaがLlamaのオープンソースモデルを無償で提供しているのも、単なる寛大さからではありません。AIが将来的にウェアラブル製品やその他の製品に大きな影響を与えることを見据え、計画的に数十億ドルにも及ぶ投資を行っているのです。
ブランドロイヤルティ：プラットフォームの流動性 vs ブランドの親和性
購買行動におけるプラットフォームの選択は非常に流動的です。Nielsenの調査によれば、常に同じブランドを購入していると回答した消費者は、世界でわずか8％にとどまっています。さらに、ブランドへの忠誠度は2022年の80％から2023年には70％へと低下しており、消費者行動が構造的に変わりつつあることを示しています。
また、消費者は特定のブランドに対して好みを持つ一方で、プラットフォームに対してはこだわりを持たない傾向が強まっています。とはいえ、ブランドに対する意識自体も弱まりつつあり、消費者の34％は、購入時にブランドを考慮しないと回答しています。また、ブランド製品を購入するのはセール時のみという人も54％に上っています。こうした傾向は、過去数十年にわたりマーケティング戦略の中核をなしてきたブランドロイヤルティのあり方とは一線を画しています。
ブランドにこだわらない傾向は、特に音声やAIを介した購買行動において顕著です。音声ショッピングは、米国と英国だけで2025年には400億ドルに達すると予測されており、消費者はブランドよりも利便性と効率性を重視しています。
マルチモーダル・コミュニケーションの必然性と、逃せない好機
AIDAファネルからマルチモーダルファネルへの移行は、数年内に現実化する見込み
このパラダイムシフトは、B2B／B2Cを問わず、市場での可視性を根本から再構築する前例のない機会です。ただし、この機会を活かすためには、スピードが求められます。AIを活用した情報収集が本格化する前の今こそ、先行者が競争優位を築くための絶好のチャンスです。AI検索のパターンや最適化戦略がまだ成熟していない今の段階だからこそ、いち早く動くブランドが主導権を握ることができます。市場全体がAIネイティブなアプローチに適応した後では、こうした優位性を築くことは容易ではありません。
また、これらは単に市場シェアを維持するためだけの対応ではありません。むしろ、従来の検索や情報収集手法に最適化された大手ブランドを、小回りのきく新興ブランドが一気に追い抜くチャンスでもあります。 競争のルールが再定義されるなか、今後の勝敗はこれまでのシェアではなく、AIへの理解と実行スピードにかかっているのです。
マルチモーダルファネル時代を牽引する、ホフマンエージェンシーのAIファーストアプローチ
ホフマンエージェンシーでは、AIプラットフォームに関する専門知識に積極的に投資し、クライアントがAI主導のマルチモーダル時代を理解し、対応し、そしてリードできるよう支援しています。
多くの代理店はいまだに、AIを脅威と捉えるべきか、それとも機会と見るべきかで足踏みをし、信頼性の高いコンテンツさえあれば自然にAI検索で上位に表示されると考えています。一方で、私たちはクライアントがこの変化の最前線に立てるよう、多角的なサポートを提供しています。
One Challenge, One Team：AI主導のコミュニケーション時代においては、コンテンツも全体最適で設計されるべきです。デジタル戦略、リサーチ、コンテンツマーケティング、PR、マーケティング、SEO、GEO（Generative Engine Optimization：生成エンジン最適化）など、あらゆる領域が分断なく連携することで、バランスの取れたスムーズな体制を築き、次世代コミュニケーション成果を実現します。
私たちのAIネイティブなサービスポートフォリオ
AIプラットフォームとの高度な統合：私たちはChatGPT、Gemini、Claude、DeepSeekをはじめとする、主要なAIプラットフォームについて深い専門知識を持っています。単にAIの回答にブランドがどのように登場するかを確認するだけでなく、さまざまなAIチャネルで正確かつ好意的にブランドが認識されるよう、コンテンツの構造そのものを戦略的に最適化します。
マルチモーダル・コンテンツの構築力： ホフマンエージェンシーでは、AIによる利用・消費を前提に、テキスト・音声・映像・インタラクティブ要素を一体化したAIファーストのコンテンツ戦略を設計しています。これらのコンテンツは、人間にとって魅力的であると同時に、AIシステムが引用・推薦しやすい構成となっており、ブランドの取り上げられ方についても定期的にモニタリング・最適化を行います。
音声・対話型AIの最適化：ブランドの可視性において音声検索が新たな競争領域となるなか、会話型クエリに対応したコンテンツの最適化も行っています。見込み顧客が関連業界についてAIアシスタントに質問を投げかけた際、クライアントのブランドが代表的な存在として取り上げられるよう支援します。SEOは引き続き重要ですが、GEOが今後の重要な差別化要因となるでしょう。
AI主導コミュニケーションにホフマンエージェンシーを選ぶ理由
AIクライシス管理の実績(*)：ホフマンエージェンシーでは、AIによって拡散される誤情報の脅威に迅速に対応するプロトコルを構築しています。AIによって増幅される誤情報からクライアントを守るだけでなく、AI上でポジティブなブランド連想を戦略的に育てていきます。
クロスプラットフォームAI分析 (*)：従来型の検索エンジンとAIプラットフォームの双方におけるブランドの可視性をモニタリング・追跡します。さらに、AIシステムを介した際に、企業メッセージがどのように伝わるかを可視化し、随時最適化することで、人間の読者だけを想定した競合他社よりも一歩先を行く戦略立案を実現します。
ホフマンエージェンシーのグローバルAIチームと社内トレーニング体制
私たちはグローバルなAIチームを設置し、新興AIプラットフォームの継続的な評価や、クライアント代理業務における倫理的ガイドラインを策定しています。社内ではHAcademyプログラムを通じて、AI関連の継続的なトレーニングを実施し、クライアントの可視性に影響を与えうるプラットフォームのアップデートやアルゴリズムの変化に常に対応できる体制を整えています。
業界別のAI知見：半導体、HRテック、コンシューマーテック、量子、AI、データセンター、SaaS、DevOpsなど多岐にわたる業界への深い理解を有しています。それぞれの業界で、AIプラットフォームがどのように情報を優先・表示するかといった傾向や理解しています。
変革をリードする準備はできていますか？ビジネスの難題、ぜひご相談ください
従来の検索からAI主導の情報収集へのシフトは、ソーシャルメディアの登場以来、ブランド・コミュニケーションにおける最大級の変化といえるでしょう。ただし、今回の変化はこれまでとは異なり、数年単位ではなく、わずか数ヶ月というスピードで進行しています。
私たちは、マルチモーダルファネルの未来に備えるだけではなく、それがすでに現実となった今に対応しています。競合他社がまだ状況の把握に努めているなか、私たちのクライアントはすでにAIプラットフォーム上で確かなプレゼンスを築いています。
ブランドの発見や評価のプロセスは、AIによって大きく塗り替えられようとしています。問われているのは、どの企業がこの変化の最前線に立ち、どの企業が取り残されるかということです。
AI主導のマルチモーダル環境は、すでに業界の在り方を変え始めています。貴社のブランドの可視性と信頼性を最大化するAIファーストな取り組みに向けて、ぜひご相談ください。
*一部のサービスは現在開発段階にあり、内容・提供時期等が変更となる可能性があります。あらかじめご了承ください。